のよ。これにこりたから、今度の彼氏はギンミするわよ」
お竹もすっかり人間が変った。
怠け者の亭主をもって苦労した女が働きにでて陽気でゼイタクな世界に身を入れたが最後、再び暗い自分の巣へ戻れなくなるのが自然である。亭主たるものドン底の貧乏ぐらしをした際には決して女房を働きにだしてはならぬ。
貧乏すればするほど自分一人が歯をくいしばって働きぬいて女房子供を守るべきものだ。女房を働かせるのは生活の楽な人が生活を豊富にするためにやるべきことで、貧乏ぐらしのセッパつまった必要から女房を働きにだせば、女房が暗黒な家庭へ再び戻れなくなるのは弱い人間の悲しい定めとすら見てもよい。
家政婦や何かならまだしも、仲居とか女給とかドンチャン騒ぎの陽気な世界へ身を置けば自分がでてきた元の巣が見るに堪えず居るに堪えなくなるのは自然の情だ。着かざってみがいてみると、お竹はどことなくチャーミングで男の心をそそる情感が豊富であるから、言い寄る男も少くなかったが、今度はギンミしなければならぬと考えているから浮気男の口車にはなかなかのらない。
矢沢という織物屋の旦那が浮気心からではなくて真剣に惚れぬいて言いよるの
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