から夜更けまで余念もなく人生案内の投書をアレコレと思い悩み書き悩んでいる。
 おまけに近来鼻下にチョビヒゲをたくわえるに至った。
 パチンコに凝るとか競輪に凝るというのもこれも始末にこまるであろうが津々浦々に同類があまたあってその人間的意義を疑られるには至らないが、当年三十八の人生案内狂、ついにチョビヒゲを生やすという存在はいかにも奇怪だ。
 二人の子供を抱え、無一物の中であせらず慌てず人生案内に没頭しているバカらしさ薄汚さ、どうにも次第に薄気味わるくなるばかりで、わが家に近づいてシキイをまたごうとするとゾオッと寒気がする。
 雑種の犬か青大将が義理立てするばかりとはまことに名言で、お竹も内々甚しく同感せざるを得なかった。なにもこう得意になってウチの亭主がとか云ってるわけではない。有るものを無いとも云えずウチに宿六が待ってるからと云っただけの話だ。ヤスやセツに非難されてみると、なんとなく解放感を覚えた。
「誰に自慢できる宿六でもないけれど、行きがかりだからやむをえないわよ。私もちかごろ宿六の生やしはじめた鼻下のチョビヒゲを見ると胸騒ぎがしてね。カアッと頭へ血が上ったりグッと引いたりする
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