が尋常ではなくクタクタになってるオモムキがあるから、これぐらいなら安心できるなと考えた。そこで矢沢を秘密の旦那に契約して身をまかせたのである。
矢沢も毎晩女とアイビキして外泊できる身分ではないから、はじめは、彼女を自家用車で送ってくれたりしたが、お竹の方は次第に大胆になって、矢沢が帰ってもお竹は朝まで温泉マークでねこんでしまうようになった。そこで虎二郎も次第に女房の素行を疑るようになったのである。
★
だんだん調べてみると織物屋の旦那がついたらしいと分ったから虎二郎はお竹を二ツ三ツぶん殴って、
「ヤイ、間男しやがったな。亭主の顔に泥をぬるとは何事だ」
「泥がぬれたらぬたくッてやりたいよ。どれぐらい人助けになるか分りゃしない。お前の顔を見ると胸騒ぎがしたり虫がおきるという人がたくさんいるんだよ。私はね、広い世間へでてみて、お前のようなバカな男がこの世に二人といないことが分ったんだよ。私は今までだまされていたんだ。畜生め! 人間のフリをしやがって。お前なんか人間じゃアねえや。雑種の犬か青大将とつきあって義理立てしてもらえやいいんだ。出来そこないのズクニューめ。他のオタマジャクシだってオカへあがってジャンパーを着るとお前より立派に見えらア。間男なんて聞いた風なことを云うない。人間のフリをするない。さッさと正体現してドブの中へもぐってしまえ」
「キサマ、オレをミミズとまちがえてやがるな。ミミズが兵隊になって支那へ戦争にでかけられると思うか。ミミズに支那ソバが造れるはずはねえや。こうしてくれる」
「ぶったな。もうお前なんかの顔を二度と見るものか」
そのまま家をとびだしてしまった。
虎二郎も、こまった。腹は立つが子供を二人のこされて、おまけに五千円の金がはいらなくなると、その日から生活にこまる。甚だ残念だが手をついて、あやまって、戻ってもらわないわけにいかない。また新しくお竹の身にそなわりはじめた色香にもミレンは数々ありすぎる。
虎二郎は二人の子供をつれて料理店を訪ね、会わないというお竹にまげて会ってもらって、
「先日は手荒なことをして、まことにすまない。二人も子がある仲で子供をおいてお前にでてゆかれてはオレも死んでしまうほかに仕様がない。どうか戻ってくれ」
「お前さんがそんな風だから私はイヤなんだ。子供を三人も四人もかかえながら働いて子供を育
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