レにもこんな人なみのことが……と、妙な気持になることがままあるのである。そして今では子供の父になったことを嬉しく思っているのである。はじめはそうは思えなかった。子供の生れたことがウソのようにしか思えなかった。オレの子だなんて、とんでもないというような気持が強かったのだ。
子供が生れたばかりのころは、犬が子供に敵意をもち、噛みつこうとするので、こまった。それで犬よけのサクを造って子供を座敷牢に安置するような必要があったが、しかし当時は私自身がいつ子供をひねり殺すか、内々その不安で苦しんでいた。人に語れない苦しみであった。
その苦しみが今ではなくなって、ただ愛情だけで子供を抱く気持になれたので、これも非常な安心であった。また犬もだんだん子供を愛すようになり、もう敵意はなくなったので、これも安心であった。
この写真は生後五ヵ月半であるが、発育は順調で、多くの点で私よりも健全のようだ。私はしかしまだこの子供に何も期待していない。どんな風に育てようという考えも浮かばない。ただマットウに育ってくれと願うだけで、そして子供の生れたことを何かに感謝したいような気持が深くなるようである。
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