はタマ貰い小僧に返送せずに、聯盟の役員にモーニング、シルクハットなどかぶらせてグランドへ立たせておいて、そのドテッ腹へ投げ返すことにしたらよろしかろうと内々遺恨をむすんだ程であった。
 僕の見た二週間の野球見物に、これと云ってエキサイトしたゲームはなかった。得点はクロスしても、試合の内容はエラー続出の有様だったり、本当に野球をたのしませてくれたというのは一つもなかった。目下の選手の技術では、これも仕方のないことだから、せめて、アトラクションをつけてはどうかと思った。女優さんやジャズバンドなどの必要はない。前哨戦に、見物人にプロ投手の投球を打たせる余興をやったそうだが、こういう余興はいかにも手頃なアトラクションではないか。そうでもして楽しませてくれなければ、目下の試合内容だけを以てしては、甲子園の中等野球の魅力に及ばないように思う。中等野球は情熱自体がたくまざるアトラクションであり、要するに試合そのものがアトラクション的魅力を具えているからである。
 後楽園球場で、最も実質ある内容をそなえていたのは、チョコレートスマックであったようだ。
 どうせロクなシロモノじゃなかろうと僕は目もくれたことがなかったのだが、文藝春秋の連中と見物したら、先ず田川君が買ってきてくれて、たべてみると、うまい。池島信平は、もっぱらスマックを食い、合いの手に野球を見ていたようであるが、実際これが、後楽園球場のカケネなしの実質ある商品ではなかろうかと僕は思った。然し、ともかく、精神病院の生活よりはマシであったことは確かであるから、二週間の野球見物を仇《あだ》オロソカに思っているわけではないのである。
 申し忘れたが、ランナーが走るたびに、シャッポが脱げて後へとぶのは見ていて苦しいものである。イキなアゴヒモでもつけたら、キリリと、一段と男振りもあがるであろう。



底本:「坂口安吾全集 07」筑摩書房
   1998(平成10)年8月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文学界 第一巻第四号」
   1949(昭和24)年6月1日発行
初出:「文学界 第一巻第四号」
   1949(昭和24)年6月1日発行
入力:tatsuki
校正:砂場清隆
2008年4月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作
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