この姉妹には少々ビックリさせられた。心霊術のカラクリ同様、人間の心のカラクリも概ねタカの知れたものであるが、後閑仙七一族の心ばかりは人間なみでは計りきれないような感じをうけた。心霊術の実演よりも後閑一族の心のモツレを目にする方がどれぐらいまたとない観物《みもの》だか知れない。多年きたえた奇術師の眼力でとくと観察してみようと思ったのである。

          ★

 後閑仙七が息子の霊をよんでビルマの孫をつれてくるなぞというのは、どう考えても額面通りには受けとれない。そもそも仙七は長男を特別扱いしていなかった。一寸法師や娘たち同様ヤッカイ者扱いで、それでも大学へは入れてやった。すると召集をうけたから、名誉なことである、わが家の誇りでもある、大いにお国のために働いて下さいと大そう感動ゲキレイしたのはヤッカイ者が一人へって大助かりだという気持からの国家への感謝感激のアラワレであったろうと人々は推察した。他に特別の愛情を示した例はなかったのである。
 そういう次第であるから、そもそも息子の幽霊が仙七に一目会いに現れたなぞというのが大いにマユツバ物で、もしも生き残ってビルマに土着したのが事実
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