なおさらだ。最短距離の茂手木よりも辰男の方が往復に有利と見てよい。辰男の位置の場合、遠距離ということは苦にならないのである。暗幕に沿って歩けばよいのだ。
こうしてみると、動機の上でも位置からでも辰男が最有力の容疑であるが、糸子の嘲りに対してジダンダふみ駈けまわって必死にこらえていたあの有様はどう解釈すべきだろうか。再び人殺しを犯す苦を必死にこらえていたのか。
むしろあのジダンダはとうてい殺人のできない弱気な小心な性格を現しているのではなかろうか。九太夫はあのジダンダになんとなく好意をいだいているのだ。この結論はだせなかった。
さて、その翌朝だ。オハヨー、奇術師サンと云って糸子がやってきた。
「ゆうべはウンザリして逃げたんですか」
「イエ、とんでもない。むしろあなたの一族にはじめて好意をもったのですよ。あなた方四人の兄妹にね」
糸子は素直にうなずいた。
「私もオジサンが好きになったわ。以心伝心ね。タデ食う虫も好き好きかな。勝美姉さんたらあんな人殺しが好きになるんだもの。私はね、今日は重大な報告に来たんです。吉田八十松ッてイヤらしいわね。ゆうべ私の寝室へ忍びこんできてね、私が蹴とば
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