たわけですが、え? ハモニカや笛は吹けなかったはずだと皆さんが仰有ってるんですか。それはあのハモニカや笛は吹ける道理がありません。別のハモニカ別の笛を吹いてるのですよ。口にくわえッ放しにね。夜光塗料のぬってない別の物、ポケットの中の品物です。で、結局私には後閑さんの殺されなすッた音をききわけることができなかったのですが、たぶんあのガラガラの最中ですね。あの音響の最中に皆々悩まされたあげく方々に溜息や呻き声が起りました。たぶんその一ツが被害者の苦悶の呻きではなかったでしょうか。うまく重なったものですよ。偶然です。たぶん犯人は音楽がはじまると同時に行動を起し被害者の後へまわって音楽の発する位置をたよりに狙いをつけていたものと思われますが、たまたまガラガラのチャンスを利用して非常に安全に目的を達することができたのですね。ガラガラがなくたって目的は達せますが、いくぶん危険ですね。苦悶の声や何かで早く判ってしまうでしょう。もっとも電燈をつけるまでには間があるでしょうから、自分の元の位置へ戻る時間に不足はないと思います。しかし呼吸の乱れや何か、隠しきるには一苦労も二苦労もしなければならぬ道理です。
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