ぱらその本拠ないし同類の邸内でやる時で、見知らぬ出張先ではこれほどのことはやらない。むしろ、やれないのである。なぜなら本拠や同類の家とちがって、見知らぬ依頼者の家ではいろいろと仕掛けを改められる怖れがあるからだ。
 その代り、このように暗幕のトーチカをつくれば、相当の荒芸がやれる。たとえばユーレイをだすこともできるし、テーブルやピアノなぞを空中へ浮きあがらせることもできる。しかしそれにはそれだけの仕掛けがいるから、改められればバレるのである。
 部屋の中央にまるいテーブルがあった。しかし術者はそのテーブルに坐るのではなく、床の間とならんでボックスがあるのだ。そのボックスは後と左右の三面と上下が板張りになっており、客席に向いた正面だけが暗幕のカーテンになっている。その中にイスがあった。術者はそのイスに坐すのであろう。一般にイスに坐して手足を縛りつけるのが例である。この縄をぬけるのは簡単だ。九太夫は十秒前後でできるのである。まるいテーブルの上にはメガホンやハモニカや人形やラッパや土ビンや茶ワンなぞがのせられていた。
「このジュウタンも吉田八十松さんがわざわざ持ってきたのですか」
 九太夫は
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