部下をひきいて討伐にでかける姿を見たのである。そして彼の怖るべき所業の数々をむしろ讃美して語る人々の話をきいたのである。
当然戦犯として捕えられて然るべき人物だが――と九太夫は考えた。こういう人間に限って急場の行動迅速で、雲を霞と三千里、昨日の敵は今日の友、めったにバカを見ることがないのであろう。
「たしか中支の奥でお目にかかりましたなア。私は奇術の慰問にでかけたんですが、慰問のはじまる前に討伐におでかけでした。その名も高い鬼少尉と承りましたが」
「いえ、とんでもない。ぼくは内地の部隊にゴロゴロしてたんです」
茂手木はプイとソッポをむいて、つまらないことを云うなとばかり、タバコの煙をプウプウふいた。
★
奇術は二階の十五畳の座敷。着席して九太夫はおどろいた。
床の間を残して全部暗幕をおろしているのは当然だが、天井まで暗幕でおおうている。下はジュウタンを二重にしきつめているのである。
これではどんなカラクリでもできるではないか。天井の暗幕の上からも、ジュウタンの下からもコードやヒモの細工ができる。このように暗幕とジュウタンで完全なトーチカをつくるのはもっ
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