すが、心霊術師の旅費と大道具の運賃まで半分当方持ちという高利の条件でしてね。父との商談ですからそれぐらいは覚悟の上で、父の鼻をあかしてやるためならそれぐらいの金はだしてあげようと私や妹の主人たちも大へん乗気なのです。先生への謝礼も充分に致すつもりですから、ぜひぜひ出席願って心霊術のカラクリをあばいていただきたいのです」
「左様ですか。それでお話は判りました。私も心霊術の実験にはだいぶひやかしがてらでかけまして、あの奇術師の奴が来てるんじゃア今日の実験は中止だなぞときらわれるようになったものですが、大和の吉田八十松には幸いまだ顔を見知られておりません。日本一かどうかは存じませんが大そう評判の術師ですね。よろしゅうございます。お言葉のように私が出むきましてカラクリをあばき、また直後に私が同じことをしてお目にかけますが、さとられると吉田八十松が実演を致しませんから奇術師の伊勢崎九太夫が来てるなぞということは気配にもおだしにならぬように。心霊術に凝ってる誰それというように、よいカゲンに仰有っておいて下さいまし」
 こうして九太夫も当日出席することに話がきまったのである。九太夫にしてみれば心霊術のカラクリを見破ることにはもう興が失せかけていたのであるが、ほかならぬ後閑仙七一族の血と金にからんだ一幕であってみれば改めて興はシンシンだ。眼前の姉妹にしても天性の美貌となにがしの気品、虫も殺さぬような優雅な風であるけれども、その性根の程はどんなものだか。勝美の言葉は落ちつきがあって物静かではあるが、語られている内容は甚だ異常で非人情なものではないか。その心を人の形に現せば一寸法師の客ひき番頭のような姿に化するのかも知れない。
「失礼ですが、皆さんは一ツ腹の御兄妹でいらッしゃいますか」
「一ツ腹に見えないのですか」
「四人の方々それぞれお顔に似たところがございませんのでね」
「よくよく似てないらしいですね。皆さんがそのように仰有るのですよ。ですが一ツ腹の兄妹なんです。似てないのは顔だけじゃありません。心も性格も全然別々なんですよ。至って仲も良くないのです。四人に一ツ共通なのは父を憎んでいることだけです」
 姉がまだ言い終らぬうちから、妹はカラカラと小気味よげに笑いつづけた。九太夫も小さい時からの奇術師商売、日本はおろか海の外まで廻り歩いて、ちょッとのことでは物おじしないタチであったが、
前へ 次へ
全27ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング