た。その警報が櫛の歯をひくが如くに飛んでくるという夜、信長は軍評定は全然やらず、もっぱら世間話に夜ふかしをして、夜も更けた、もう帰れ、と家来たちに帰宅させた。家老たちは城を出ると顔を見合せ、運の末には智慧の鏡もくもるというが、バカ大将も今日が最後だと云って、てんでに信長を嘲弄しながら夜道を歩いて帰ったのである。
 あくる未明だ。今川勢が愈々鷲津丸根にとりついて攻撃をはじめたという注進がきた。
 そのとき信長は立ち上り、朗々とうたいながら敦盛《あつもり》の舞いをはじめた。
 人間五十年
 化転《けてん》のうちをくらぶれば
 夢幻《ゆめまぼろし》の如くなり
 一度生を得て
 滅せぬものゝあるべきか
 信長終生熱愛の謡であり舞であった。彼の人生観ぐらい明快なものはない。この謡の文句で足りた。イノチをかけていたからだ。
 謡が終えたが信長はまだ舞っていた。そして、舞いながら、ホラガイを吹け、具足をよこせ、そして舞いながら具足をつけ、立ちながら食事をとり、カブトをかぶり、なお舞いながらスルスルと出陣してしまったのである。
 家来たちはバカ大将に呆れ、帰宅して、ねむっている。ホラガイの音に目をさま
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