のものとなった、この包みが、ありがたい綸旨二通と奉書なのだ、こうしては、おられん、さあ、いそいで、支度々々、めでたい、ありがたい、と云って、むやみに一人でテンテコ舞いをしている。
 信長が戻ってきた。いつもの通りさッさと湯殿へ行く。道家がそれを追いながら、実はこれこれにて、朝廷の使者が見えております、アヽ、そうか、と云って、信長は風呂の中へとびこんで、湯ブネから首をだして、勅使のことを色々と質問し、新しい小袖の用意はあるか、ございますとも、それはもう用意に手ぬかりはございません、せっかく天皇様が日本国を下さると仰有《おっしゃ》るのですから、と、道家は日本国をもらった、もらった、とウワゴトみたいに言っている。それで信長もお風呂でバチャバチャ水をはねちらして、上キゲンであった。
 然し、別に日本国の支配を命じるというような、たいした綸旨ではなかった。
 お前も近頃武運のほまれ高く、天下の名将だとその名も隠れなく請人の崇拝をうけているそうであるから、ついては朝廷に忠義をつくし、皇太子の元服の費用を上納し、御所を修理し、御料所を恢復してくれ、こういう意味の綸旨であった。
 皇室の暮しむきの窮状をなんとかしてくれ、というだけのことだ。まア、借金の依頼を一とまわり大きくしたゞけのようなものだが、これだけのことでも、朝廷から、頼みをうける、頼まれるだけの実力貫禄というものが具わったからのことで、いわば実力の判定を得たようなものだ。
 信長はミヤゲにもらった道服をきて、左京亮と盃をいたゞき、二通の綸旨をいたゞいて元気百倍、これから近隣を片づけて、それから天下を平定いたしますから御安心下さい、まず、三日五日ほどユックリ泊って行って下さい。先《まず》は天下ひらける前祝い、雁の汁に鶴の刺身、長臣五名をよんで酒宴をひらく。
 朝廷へも同じ縁起の品物をと、翌日からセッセと狩をして、雁と鶴をしこたま捕って、金子《きんす》に添えてミヤゲにもたせて帰らせた。
 そのとき信長は三十四だ。信長は野良犬の親分みたいに、野放しに育った男だ。誰のいいつけもきかず、マネもせず、勝手気ままを流儀にして、我流でデッチあげた腕白大将であった。腕白大将という奴は、みんな天下一というようなことを、いと安直に狙う。
 丹波の桑田郡|穴太《あのう》村の長谷《はせ》の城守、赤沢加賀守が関東へ旅をして鷹を二羽もとめて、帰途に清
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