る真理であって、政治に於ては、真理ではない。なぜなら、政治は、歴史的な人間一般に属するものではなく、現実の五十年しか生きられない、非歴史的な生命や生活とのみ交渉しているものだからだ。真理や理想というものと、政治は、本来違っている。政治は、あくまで、現実のものであり、真理や理想へ向っての、極めて微々たる一段階であるに過ぎない。それ以上であっては、いけないのである。
だから、政治に於ては、一時の方便的手段というものが、許されて然るべきものである。然し、天皇制の復活の如き場合は、まちがっている。
方便の場合は、あくまで方便であり、それを利用して、次なる展開や向上をもとめているもので、あくまで、人間が方便を支配しているものなのである。ところが、天皇制の場合には、政府が方便のつもりでいても、民間に於ては狂信となり、再び愚かなる軍国暗黒時代となり、文化は地をはらい、方便が逆に人間を支配するに至る危険をはらんでいる。一人の人間を助けるために、多数の人間を殺す愚にひとしいものだ。
天皇制というものを軍人が利用して、日本は今日の悲劇をまねいた。その失敗から、たった三年にして、性こりもなく、再び愚を
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