き届いた教育や指導がなければ、事に当って多少とも紳士的な兵隊などを作ることはできない筈だ。日本を見よ。相当に年季を入れて兵隊を仕込んでいながら、決して紳士的な兵隊を作ることはできなかったではないか。中共はシナに生れ、シナへ攻めこんだ兵隊の中で、最も優秀な品格をそなえているようだ。
だから本家ソビエットの共産主義政府が壊滅しても、中共だけは栄えるかも知れない。なぜなら、中国の国民がそれを求め、それを選ぶかも知れないから。
日本共産党の如きは、公平な第三者に支持されるに足る内容や品性は何一ツ示すことができなかった。彼らの性能の見るべきものは、スパイ性や地下のもぐり方の組織的なこと位で、新しきものの必須条件たる古きものよりも秀でた実質上の高さというものは、全面的に見かけられない。
思いがけず牢屋から出され公認された当座の一年二年は戸惑いしても、三年四年とたつうちには相当なことができなければならないはずだ。ヤミ屋のチッポケな親分でも、一年のうちに繁華な中心街を建設し、葬式の無料奉仕だのリンタク奉仕を開業している有様だ。彼らは思想も設計も持たず、ただ敗戦後の焼跡と混乱に対処してドサクサまぎれの出たとこ勝負をやったお方にすぎないのである。共産党はそうではない。過去現在への幾多の検討は常時なされていなければならない筈で、何事に処しても確乎たる設計が施されるだけの充分な素養が当然なければならない筈である。しかし彼らは空想的な理想家革命好きであることをバクロしたにすぎず、内容も品性もゼロであった。マーケットのアンチャンは右であり、共産党は左であり、その中間の大多数は何でも真に良きものならば喜んでそれを選びとる人たちであるが、右も左も、中間の大多数に選ばれるために真に良き仕事や品性を高めようと努力するところはミジンもなく、事あらば暴力によって大多数を征服し、有無を云わさず号令をかける絶対君主におさまる片リンを示し、威脅しているにすぎない。その隣人たる中共は呪うべき内戦の辛苦を克服しつつ、品性の高さによって、万人にかなう正義によって、自然に民衆に選ばれ推される本当の内容を生み育てつつあるが、日本共産党は恵まれた平和な建設時代に処して、品性を高め仕事を推進することもできず、ただ牙をむき、刀をといで、武力による征服だけを当にしているのである。全くアベコベではないか。
日本共産党は云うかも知れない。オレは武力征服などという暴力はとらない。ただ「愛される兵隊」になって、真に民衆のカッサイを博し選ばれるのだ、と。この笑うべきバカバカしい論理を実際彼らは信奉しているとしか思われない。つまり彼らは平和失格者なのである。恵まれた平和時代に、良き品性と良き仕事によって真に民衆の友となり選ばれる実力は全くないが、戦争して人を殺したり物をこわしたりしながら、かねてのヤミ屋の手腕によって、東条や吉田よりもマシな公平な最低生活を配給してカッサイされる自信だけはある、と思っているようだ。
つまり彼らの政治は「最低生活」の配給へひき下って、そこで競争する以外に手を知らず、品性や秩序も「最低生活」なみのもの、つまり自分のレベルまでひき下げないと統率ができない仕組みであるらしい。他により高く恵まれた生活のモデルや、より高い品性のモデルや、より高い秩序のモデルがあっては、都合がわるいのである。
公平な最低生活を配給するぐらいカンタンなことはありやしない。それはすでに東条がやった。もしも日本共産党が、東条がやったよりも、もうちょッとマシな方法でやれる手際を見せて、共産党の真価を発揮しようというなら、それ以上に無能な政治はないと知るべきである。
自給自足の不可能なこの資源貧困な国土で、しかし、共産党の天下になれば、よその共産党がタダで物資をくれるとでも思っているのか。そんな虫のよいサモシイ料簡ではまさかないと思うが、しかし日本共産党の品性の低さを見ると、実際それぐらいサモシイ料簡のように思われて仕方がないのである。
資源貧困、自給自足でロクな生活のできない日本は、工業を起し、貿易によって生活水準を高める以外に仕方がない。いつ、いかなる時でもそうにきまったものである。
日本共産党は率先して近隣の共産党国家と友好的な貿易を促進し、日本人を、又隣人をうるおして、その真に仕事の良さによって、日本人に愛され選ばれるように努力すべきであった。
中共は現に戦争しつつあるから、やむなく掠奪暴行強姦をしないというような最低の善行に於て国民党軍と真価を争っているのであろうが、現に戦争しているから、そうせざるを得ないだけのことである。戦争中に掠奪暴行しないというのは、人間の最も不幸な状態に於ける最低の善行にすぎない。わざわざ人間を最も不幸な状態において、最低の善行を押しつけて、真価を誇示さ
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