――あるミザントロープの話――
坂口安吾

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)軈《やが》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十|瓦《グラム》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)バリ/\
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 凡そ世に同じ人間は有り得ないゆえ、平凡な人間でもその種差に観点を置いて眺める時は、往々、自分は異常な人格を具へた麒麟児であると思ひ込んだりするものである。殊に異常を偏重しがちな芸術の領域では、多少の趣味多少の魅力に眩惑されてウカウカと深入りするうちに、遂には性格上の種差を過信して、自分は一個の鬼才であると牢固たる診断を下してしまふことが多い。夢は覚めない方が(勿論――)いい。分別は、いやらしいものである。軈《やが》て自分の才能や感覚に判然《はっきり》した見極めがついて何の特異さも認め難い時がくるとこれくらゐ興ざめた、落莫とした人
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