して説明しながら、
「出て行け! お前は、出て行け! 不愉快だ! 鼻持ならない厭な奴だ!」
「ああ、騒がしい奴だ。ああ、実に、騒がしい奴だ、騒がしい、騒がしい……」
「黙れ! w―w―w―w―w……ああ、俺は堪えられない。貴様は不愉快だ、wachchchchch……」
小男は金属性の響きをたてて、やにわに私を突き飛ばすやうにし、坂道の一方へ、まつしぐらに走り去つてしまふのである。
私は、苦々しい憤りに胸が逼塞《ひっそく》して、廊下に籠めた静かな薄闇を大きな息で吸ひ込み乍ら、部屋へ戻つて来るのであつた。然し尚、私の怒りに堪え切れぬ私は、さらに隣室の戸を厳しく開けて、苦々しげに女を睨まへ乍ら、
「ああ、騒がしい。ああ、騒がしい。ああ、ああ、騒がしい、騒がしい……」
すると私への反感から、溢れ出やうとする渦をも熱心に塞《せ》き止めてゐる女は、部屋の片隅へ小さく寄つて――しかし言葉にではなしに身体によつて、私への激しい嫌悪と、不躾けに闖入した私への痛烈な憎しみを、ありありと表はして見せるのであつた。私は更に激怒して、全く我を忘れ乍ら、
「ああ、騒がしい。ああ、騒がしいことだ。君は実に騒がしい人だ。僕を静かにしておいて呉れといふのに――」
「貴方こそ、貴方の部屋へ――」女は、掠れ去らうとする声を熱心に集めて、
「貴方こそ、お戻りなさるといい。貴方のお部屋へ――」
「ああ、騒がしい。ああ、騒がしいぞ。ああ、ああ、君なぞに、死んで行く人間の気持が分つて堪まるものでない。ああ、俺は、もう長く生きてゐない人間だから……」
私の腕は、激怒のために大きな震幅に顫えはぢめて――若しこのまま、女の顔を劇しく打ちのめすことでもしなかつたなら、私の身体は一瞬にして千切れ去つてしまふやうな身悶えを覚え乍ら、其の場へ全く立ち竦んで、虫のやうにビクビクとする全身の顫えを、どうするわけにも行かなかつた。
まだ夏の盛りに、この女は、坂下の家を逃げてしまつた。その昼間、私と、病院の門前で立ち別れた女は、夜になつても帰つては来なかつた。私はその事を、女は已に逃げ去つたのだとは思ひ込むことが出来ずに――隣室に物音のない不思議な一夜を明してのち、翌る朝になつて、苦り切つた笛六が、ややともすれば表情の失せた、白々しい苦笑に落ち込みがちな顔付をして、、何も言はずに出勤してしまつてから、その事を思ひ知ること
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