なのである)この三人のうち上の二人が共謀して母を毒殺しようとしモルヒネを持つて遊びにくる、私の母が半気違ひになるのは無理がないので、これがみんな私に当ることになる。私は今では理由が分るから当然だと思ふけれども、当時は分らないので、極度に母を憎んでゐた。母の愛す外の兄妹を憎み、なぜ私のみ憎まれるのか、私はたしか八ツぐらゐのとき、その怒りに逆上して、出刃庖丁をふりあげて兄(三つ違ひ)を追ひ廻したことがあつた。私は三つ年上の兄などは眼中に入れてゐなかつた。腕力でも読書力でも私の方が上である自信をもち、兄のやうな敬意など払つたことがなかつた。それほど可愛らしさといふものゝない、たゞ憎たらしい傲慢なヒネクレ者であつた。いくらか環境のせゐもあつても、大部分は生れつきであつたと思ふ。そのくせ卑怯未練で、人の知らない悪事は口をぬぐひ、告げ口密告はする、しかも自分がそれよりも尚悪いことをやりながら、平然と人を陥入れて、自分だけ良い子になり、しかも大概成功した。なぜなら、子供のしわざと思へぬほど首尾一貫し、バレたときの用心がちやんと仕掛けてあり、大概の人は私を信用するのであつた。私は大概の大人よりも狡猾で
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