ョンだから、レビューは甚だ貧弱である。女が七八人に男が一人しかいない。ところが、このたった一人の男が僕の見参した今迄の例をくつがえして、この男が舞台へでると、女の方が貧弱になってしまうのである。何か木魚《もくぎょ》みたいなものを叩いてアホダラ経みたいなものを唸ったりしていたのを思いだすが、堂々たる男の貫禄が舞台にみち、男の姿が頭抜けて大きく見えたばかりでなく、女達が男のまわりを安心しきって飛んでいる蝶のような頼りきった姿に見えて、うれしい眺めであった。まったくレビューの男にあんな頼もしい貫禄を見ようとは予期しないところであった。
こういう印象は日がたつにつれて極端なものになる。男の印象が次第に立派に大きなものになりすぎて、ほかのレビューの男達が益々馬鹿に見えて仕方がなくなるのである。あれぐらいの芸人だから浅草へ買われてこない筈はなかろうと思い、もう一度見参したいと思ったが、あいにく名前を覚えていない。会えば分る筈だから、浅草や新宿でレビューを見るたびに注意したが再会の機会がない。
ところが、この春、浅草の染太郎というウチで淀橋太郎氏と話をした。この染太郎はお好み焼屋だが、花柳地の半
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