は。口約束じゃアダメ。はっきり現物で示して下さらなくては」
「それは無理ムタイという奴だな奥さん。それはあなたは、あなたの彼氏は天下のお金持だから、だけど、あなた、天下無数の男という男の多くは全然お金持ではないのだからな。処女というものを芸者の水揚げの取引みたいに、それは、あなた、むしろ処女の侮辱だな。むろん、あなた、私はノブちゃんを大事にしますよ。今、現に、私がノブちゃんを遇する如くに、です。それ以外に、あなた、水揚料はひでえな」
「水揚料になるのかしら。それだったら、私もタダだったわ」
「それ御覧なさい。それはあなた、処女は本来タダですよ」
「私の母が私の処女を売り物にするつもりだったから、私反抗しちゃったのよ。でも、今にして思えば、もし女に身寄りがなかったら、処女が資本かも知れなくってよ。だって芸者は水揚げしてそれから芸者になるのでしょう。私の場合は、処女というヨリドコロを失うと闇の女になりかねない不安やもろさや暗さに就ていうのです。ですから処女をまもるのは生活の地盤をまもるのよ」
「かつて見ざる鋭鋒だな。奥さんが処女について弁護に及ぶとは、女は共同戦線をはるてえと平然として自己
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