。だから、いっそ、私の方から許してしまったら。なんだか、ヤケよ。サチ子さん、どうしたらいいの。教えてちょうだい」
「私には分らないわ。あんまりたよりにならなくて、ノブ子さん、怒らないでね。私はほんとに自分のことも何一つ分らないのよ。いつも成行にまかせるだけ。でも、ほんとに、ノブ子さんの場合は、どうしたらいいのかしら」
「ヤケじゃアいけないでしょう」
「それは、そうね」
 その晩の食卓で私は田代さんにいった。
「田代さんほどの人間通でもノブ子さんの気持がお分りにならないのね。ノブ子さんは身寄りがないから、処女が身寄りのようなものなのでしょう。その身寄りまでなくしてしまうとそれからはもう闇の女にでもなるほかに当のないような暗い思いがあるものよ。私のような浮気っぽいモウロウたる女でも、そんな気持がいくらかあるほどですもの、女は男のように生活能力がないから、女にとっては貞操は身寄りみたいなものなんでしょう、なんとなく、暗いものなのよ。ですから、ノブ子さんのただ一つの身寄りを貰うためでしたら、身寄りがなくとも暮せるような生活の基礎が必要でしょう。前途の不安がないだけの生活の保証をつけてあげなくて
前へ 次へ
全83ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング