らだは同じことだよ。からだだけはなんて、そんな贋物はいけねえな。だから奥さんを見習え、てんだ。奥さんは浮気、からだ、そんなこと、てんで問題にもしていねえ。だからまた、うちのオヤジと奥さんとは浮気の及ばざる別のつながりがありうることになるのだな。ここのところを見なきゃア。からだにこだわったんじゃア、だからノブちゃんは大学生だのチンピラ与太者に崇拝されたりなんかして、そういうクダラナサが分らねえのだから切ないよ。どうしてこう物の道理が分らねえのか、ねえ、奥さん」
 田代さんがノブ子さんを私のところへ同居させたのも、なんとかして私の浮気精神をノブ子さんに伝授させたい念願だから、特別私の目の前でせっせと口説くけれども、私は笑って見物、助太刀してあげたことがない。
「奥さん、ノブちゃんの心境を変えるようになんとか助けて下さいな」
「だめ。口説くことだけは独立独歩でなければだめよ」
「友情がねえな、奥さんは。すべてこの紳士淑女には義務があるです。それは何かてえと友の恋をとりもつてえことですよ。私が女をつれて友だちに会う。するてえと、私は友達よりも私の方が偉いように威張り、また、りきむです。これ浮気
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