できず私の方から打ちこむことができないタチであったが、思いがけない窓がひらかれ気持がにわかに引きこまれると、モウロウたる常に似合わず人をせきたて有無をいわさず引き廻すような変に打ちこんだことをやりだす。私自身が私自身にびっくりする。女というものは、まったく、たよりないものだ、と私はそんな時に考える。
温泉で意気銷沈のエッちゃんにお酒をすすめて、そして私たちが寝床についたとき、
「エッちゃん、今まで、いうの忘れてたわ」
「なにを?」
「ごめんね」
「なにをさ」
「ごめんねをいうのを忘れてたのよ。ごめんなさい、エッちゃん」
「なぜ」
「だって、とても、人間侮蔑よ」
「人間侮蔑って、何のことだい」
「全勝してちょうだい、なんて、人間侮蔑じゃないの。私、エッちゃんにブン殴られてもいいと思ったわ」
エッちゃんはわけが分らない顔をしたが、私は私のことだけで精いっぱいになりきるだけのタチだから、
「エッちゃんはタドン苦しいの? 平気じゃないの。私むしろとても嬉しいのよ。許してちょうだいね。私が悪かったのよ。だから、エッちゃん」
私は両手をさしのべた。久須美のほかの何人にも見せたことのない天然自
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