一つだけで、さもなきゃ、廃業したいぐらい厭気ざしているのだが、廃業しちゃア、サチ子さんも相手にしてくれないだろうなぞと考えて、ともかく裸ショウバイになんとか精を出すように努めているのだ。こんな僕だから思いはいっぱいだけど、自分一人勝手のわがままはいいたくない。それはこんなショウバイをしているオカゲで、取柄といえば、女と男のことだけはいくらか身にしみて分るんだな。僕らはよくヒイキの旦那の世話になる。旦那というものにはオメカケがいるものだが、旦那はみんないい人たちで、だからサチ子さんの旦那でも僕には旦那という人が、みんないたわってあげたいような気持になる。だから僕の見てきたところでも、オメカケが浮気をしてロクなことになったタメシはないね。罰が当るんだ。けれども、サチ子さん、僕にはもう心の励みがあなた一人なんだから、僕は決して女房になってくれ、そんな無理なことはいわない。こうして毎日つきあってもらって、それで満足できりゃいいけど、別れて帰ると、なんとも苦しい。ほかの女でまにあうというものじゃアないんでね。巡業に出ているうちは忘れられる。こうして目の前に見ちゃ、ダメだ。僕が相撲をとってるうち、
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