青鬼の褌を洗う女
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)倅《せがれ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)百|米《メートル》
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匂いって何だろう?
私は近頃人の話をきいていても、言葉を鼻で嗅ぐようになった。ああ、そんな匂いかと思う。それだけなのだ。つまり頭でききとめて考えるということがなくなったのだから、匂いというのは、頭がカラッポだということなんだろう。
私は近頃死んだ母が生き返ってきたので恐縮している。私がだんだん母に似てきたのだ。あ、また――私は母を発見するたびにすくんでしまう。
私の母は戦争の時に焼けて死んだ。私たちは元々どうせバラバラの人間なんだから、逃げる時だっていつのまにやらバラバラになるのは自然で、私はもう母と一緒でないということに気がついたときも、はぐれたとも、母はどっちへ逃げたろうとも考えず、ああ、そうかとも思わなかった。つまり、母がいないなという当然さを意識しただけにすぎない。私は元々一人ぽっちだったのだ。
私は上野公園へ逃げて助かったが、二日目だかに人がたくさん死んでるという隅田公園へ行ってみた
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