いう噂もなかった太宰でもあれくらいだから、悪名高いアンゴは大いにやるべきである。西荻のアンゴ氏がこう判断した心境も分らないことはない。
 西荻のアンゴ氏は、ビール一本の三分の一ぐらいで赤い顔になる小量の酒のみで、それ以上は飲まず、常にもっぱら女を口説いたそうである。
 一人の女給が、ニセモノを見破っていたそうだ。この女給は西荻アンゴ氏と泊りに行った。帰ってきて、あれはニセモノよ、ホンモノはふとった大男の筈よ、と云ったが、ニセモノかホンモノか追及する情熱はてんでなく、ニセモノを承知で遊んで、ほかの店へクラガエのとき、あれはニセモノよ、ともう一度云い残して、あっさりどこかへ行ってしまったそうである。
 西荻アンゴ氏は小量の酒のみであるから、店に借金はないのであるが、多くの女給をやたらと口説いて、泊って、女に金をやらなかったり、女から金を借りたり、つまり日蝕パレスは被害をうけずに、「女給一同より」せしめていたのである。このへんも、手腕の妙であろう。
 坂口安吾を名乗って、西荻窪の刑事と握手したことなどもあるそうだから、偉い。ついでに、税務署の役人と握手して、税金をタダにしておいてくれると、も
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