西荻随筆
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)聚楽《しゅうらく》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)群生|聚楽《しゅうらく》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)惚れ/\する
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 丹羽文雄の向うをはるワケではないが、僕も西荻随筆を書かなければならない。どうしても、西荻随筆でなければならないようである。
 西荻窪のTという未知の人から手紙がきた。ひらいてみると、約束の日にいらっしゃいませんでしたが、至急都合をつけて来て下さい、という意味の文面で、日蝕パレス(仮名)女給一同より、となっている。
 私は、西荻窪という停車場へ下車したことは生れて以来一度もないのである。もっとも、去年は酔っ払って前後不覚、奥沢の車庫へはいり、お巡りさんに宿屋へ案内してもらったような戦歴もあり、前後不覚の最中に何をやっているか、どこへ旅行しているか、ちょっと見当のつかない不安もあった。然し、幸いなことには、ここ一ヶ月は、京都へ旅行し、旅行先で病臥し、帰京後も、かぜが治らず、病臥をつゞけ、あんまりハナをかんで、中耳炎
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