きてくれると都合が良いが、ほ十二[#「ほ十二」は太字]につがれると、それまでゞある。
 たうとう一日考へたが分らない。翌日目が覚めると考へはじめて、この日もたうとう分らない。翌日目が覚めると又考へはじめたので、これは容易ならん大事であると気が付いた。差当つて仕事ができないし、やがて幻に烏鷺《うろ》を睨んで寒中浴衣で蹌踉と巷を歩くやうになり、早死してしまうからである。
 そこで朝日新聞社へ渡りの手順を解説してくれと葉書をだした。ホッとした。ところが熟々《つらつら》考へてみるに、葉書が先方へ着いて呉七段の所へまはつて解説が新聞にでる迄には四日も五日もかゝる筈だし、解説してくれないかも分らない。愈々一命にかゝはるのである。
 これは危険だと気が付いたから、早速岡田東魚初段のところへ大至急御教示にあづかりたいと手紙をだしてやれ安心と思つたが、熟々考へてみると、これ又返事がくる迄には三日かゝるのである。もはや一命おぼつかないから、僕はガバとはね起きて、汽車に乗り、まつしぐらに東京へ着いた。
 本郷の富岡へ行つた。この碁会所はアマチュアの大関格が沢山集つてゐるのである。生憎大関が居なかつたから、居
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