君と一しょだね」
「左様。台所へサンドウィッチを取りに立ってくれた以外はね。さて神田氏はシャワーをとめてアケミさんからタオルをうけとってくるまって……」
「見ていたのかい」
「バカ。よその浴室をのぞく奴があるかい。神田氏は口笛ふいて寝室へかけこみ、アケミさんは広間へ戻ってきた。そのときアケミさんはうかない顔で、先生が待ちかねてるが、電車で安川さんと一しょじゃなかったかと訊いたんだ。さてはあの美女が安川嬢かと思うところへ安川嬢が到着したのさ。アケミさんが安川嬢を居間へ通す。とたんに寝室の先生が大声でアケミさんを呼んだからアケミさんはドアから首だけ差しこんで」
「ドアから首だけだね」
「左様。先生がアケミさんに散歩してこいと云った」
「ひどいことを云うね。それを君もきいたんだね」
「その声は低かったから、オレにはよくききとれなかったが、アケミさんがバタンとドアをしめて怒って戻ってきて、オレをうながして外へでたのさ。すると正午のサイレンさ」
「つまり君は神田先生には会わないのだね」
「百日のうち拝顔の栄に浴したのは三十日ぐらいのものさ。彼氏は名題の交際ギライでね」
「君がチゴサンてわけではな
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