ので、文作の記憶によっても、彼が到着した時から立ち去る時まで鳴りつづいていたように思われるのである。すくなくとも、誰かが一度とめたり、またひねったりしたような出来事の記憶はなかった。
木曾は云った。
「ふだんなら、僕が室内へ行ってラジオをとめるところですが、当日安川さんが見えてられるときいてたものですから、そのための何かの必要によるものと考えて、ほッたらかしておいたんです。ラジオの鳴ってることは知ってましたとも。異常な事ですからね」
ここにも異常が一つふえたが、やっぱり他殺の確実な証拠にはならない。あとに残った問題は、ピストルが誰の物かということぐらいだ。神田がピストルを所持していることはアケミも木曾も知らなかった。
「先生の寝室のどのヒキダシも、押入の奥の奥まで、先生の知らないことまで私は知ってるのですもの。このピストルはウチの物ではありません」
とアケミは断言した。しかしその断言を裏づける確証はこれまたない。
しかし、各新聞は云い合わせたように他殺の疑いをすてなかった。自殺にせよ、他殺にせよ、久子が銃声をきかないのは変だ。他殺なら、銃声をごまかすための作為があるかも知れない
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