の作為が考えられるではないか」
つまりその説の真の意味は、十二時五分から十分までの電話のかかってきた時刻に射殺されたもので、計画的な電話だとの考えであるらしかった。
ところが久子以外にその電話をきいた者がない。きいたものがいないから久子が取次にでたのであろうが、この電話を十二時五分から十分までと仮定すると、すくなくとも二度目の電話は木曾がきいていそうなものだ。
アケミと文作が玄関をでたとき正午のサイレンが鳴った。二人は坂を降る途中で木曾とすれちがっている。そこまでは二分ぐらいの道だ。木曾は自転車を押して坂道を登ったのだが、登り道にしてもそれから三四分で家へ到着したはずである。
電話は大広間の台所よりのところに設備されており、台所の戸口の外でマキ割りをしている木曾の耳にきこえるのが普通である。
「僕は自転車を押し上げる普通の速力で登ってきました。神社の前でサイレンをきいたのから判断して、十二時五分か六分ぐらいには裏口へ到着したかも知れませんね。しかし、マキを運んできたり割ったりしているときに電話の音なぞ、きこえません。いま皆さんは電話の鳴るのを予期しているから聞えるのですが、無心にマキ割りしてる時はまた別だと思いますよ」木曾は実地検証にきた人々にこう説明したのである。
そのときアケミはハッと気がついたらしく、のぞくように木曾を見て云った。
「ねえ、木曾さん。そんなに長く、そして二回も電話のベルが鳴ってるのに、なぜ先生が電話にでなかったんでしょうね。先生はベルを長く鳴らせておくのが何よりキライな人ですもの。私たちがいるときに三度以上もベルが鳴れば、血相変えて怒鳴られるわ。さもなければキチガイのようにとびだしてきて、受話器を外してしまうわね」
すると木曾はいかにもバカバカしくてたまらぬように答えた。
「その音については、変テコだらけですよ。あんな時刻になぜラジオが鳴ってたのか、僕には見当がつきませんよ。先生のきくラジオは主としてスポーツと、たまにニュースぐらいのもので、その他の時間は当家のラジオは有って無き存在ですからね。もっとも、時に偶然や気まぐれは過去にも有ったかも知れません。あの日もたまたま気まぐれの日に当っていたのかも知れませんが、とにかくこれも当日の異常の一ツですよ」
このラジオはアケミの記憶によれば神田が唐手の型をやりだす時にスイッチをひねったも
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