篇で推理小説を読ませるには、ドイルの行き方が頂点で、つまり捕物帖の推理が適しているのである。捕物帖が読み切りの読み物として人気があるのは当然で、複雑な謎ときによって、作者と読者とが智恵くらべする推理小説は長篇でなければ魅力を発揮することは不可能なのである。
 小説と名はついても、文学だの芸術だのと面倒なことは云わず、最高級の娯楽品として、多くの頭脳優秀な人たちが、謎ときゲームのたのしさを愛されるよう慫慂《しょうよう》してやまないものである。
 諸氏にして謎ときゲームのおもしろさを覚えられたなら、おのずから、拙者もひとつ新トリックを工夫して、未見の友に挑戦してやろうというボツボツたる雄心を起すに相違ない。クリスチー、クィーン、横溝ほどの天才がない限り、職業作家になっても、忽ちトリックに行き詰ってマンネリズムに落込むばかりだから、片手間にトリックの発明を楽しみ、職業作家になろうなどと思わず道楽として斯道《しどう》に精進されるよう、おすすめしたい。又、推理小説に限って、合作する方が名作が生れやすい。一面的な欠点がのぞかれ、多角的に観察され構成されて、トリックも発育し、マンネリズムに堕し易い欠点ものぞかれるのである。三人よれば文殊の智恵というのは、推理小説の場合は、最も当てはまるのである。



底本:「坂口安吾全集 09」筑摩書房
   1998(平成10)年10月20日初版第1刷発行
底本の親本:「新潮 第四七巻第四号」
   1950(昭和25)年4月1日発行
初出:「新潮 第四七巻第四号」
   1950(昭和25)年4月1日発行
入力:tatsuki
校正:花田泰治郎
2006年4月8日作成
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