のである。警察の刑事の捜査だったら、こういう最も平凡な点から手がゝりをつかみだすのが当然で、読者の方では無論そうあるべきものと思っているから、刑事がそれをかぎださぬ以上、そんな疑いがないからだ、と思う。
 アパートを中心にトランクの出入、コントラバスケースの出入、そんな疑わしい事実がなかったのだ、と考える。だから読者には大阪の犯行を推定する手掛りが見つからない。

          ★

 だから解決編に至って、由利先生がアパートの砂袋を推理によって推定する。読者はその天才的推理に驚嘆するよりも、なんのことだい、それじゃアモッと平凡に刑事がかぎだしていそうなものじゃないか、もしまた、大きな荷物の出入を刑事にさとられる手掛りなしにやった犯人なら、砂袋をアパートにおくはずはない。アパートのオカミサンなどというものはアパート内の物品が右から左へ動くだけの変化にも鋭敏で、砂袋がふえていれば、すぐ話題になる性質のものなのである。
 こゝにもまた、作者は人間性をゆがめ、不当に人間性をオモチャにもてあそぶ欠点をもバクロしている。
 探偵小説が天才の超人的推理を必要とするのは、犯人がまた天才的で、凡
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