時からデッチにでたり、色々の商売に失敗したのがモトデになって、ともかく呉服物でも時計や材木や紙のことでも心得があった。芝居の道具方に四年働いていたことなども大変役に立っている。
その日は商売を休んで、例の※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]やロースや蒲焼や天ぷらを豊富に用意し、そっちの方が聟さんだとは知る由もなく、待っていると、婆さんがキヨ子をつれてきて、お酒がまわりかけたところで、じゃア、ごゆっくりと帰ってしまった。
なるほど叔母さんの言う通りの十人並を越えた美人で、第一、事務員をしているから、断髪洋装、姿もスラリとしていて、この年まで断髪洋装などにつきあったことがないから、外人を見るとみんな同じに見えるように、みんな女優に見えるのである。こっちは全然学がないのだから、
「エッヘッヘ」
幸吉はオデコをたゝいて、
「よろしく、お願いしやす。あたしゃ、御覧の通りの者なんで、清元と義太夫をちょいとやったゞけの無学文盲、当世風にゃカラつきあいの無い方なんで、先日も若い妓が、エッヘッヘ、ダンスをやりましょうなんて、御時世だからオジサンも覚えといて損はないわヨ、なんてネ、五六ぺんお座
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