るらしく又、かなり年長の様子で、同じ境遇にいたわりを寄せ、自分の日頃の日課を語って、朝は読経の三十分が落付いてたのしく、昼下りの香をたいて琴をかなでるのも心静かなものであるが、畑を耕して物の育つのを一日一日のたよりにするのが何よりで、
又時折は粋筋のドドイツなどを自作し、節面白く唄いはやし候も一興にて、そこもと様にも進め参らせ候
と書いてある。
珍妙な未亡人があるものだ。
すると、ある日、叔母さんがきて、
「あの人はお寺の坊さんと一緒になったよ。お寺の門に洋裁の看板もぶらさげたよ。シッカリ者さ」
「洋裁なんて、腕がねえ筈だがな」
「ミシンが一台ありゃ、誰にでも、出来らあね。お前みたいな野郎でも庖丁がありゃ料理屋ができるじゃないか。ちかごろはお経を稽古してらアね。そのうち坊主の資格をとって、おとむらいに出てくるそうだよ。お前が死ぬころは、あの人のお経が間に合うかも知れないから、頼んでおいてやるよ」
幸吉はなんとなく心の落付いた気持になった。
どうせナマグサ坊主にきまっているが、それはそれでいゝじゃないか。してみると、なんだな、オレも坊主も変りがねえようなものだ。あのアマにかゝ
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