こんなものじゃないか。活版屋の吉でも、スシ屋の寅でも、トビのドン八のところでも、奴ら、遊びに行くと、いつも女房とそんな話ばかりしていやがる。してみりゃ、当節の女ばかりが、こうというわけでもない。このアマも、あたりまえのアマじゃないか。
畜生め。ダメだろうと、ヘタだろうと、大きにお世話だ。
「何を考えてるの?」
幸吉は返事をしなかった。
女は便所へ立って行った。置いてあるハンドバッグを見て、幸吉は中をあけてみた。別に変ったものがはいっているワケでもない。手紙が二通はいっていたのを、ぬすんで、火鉢のヒキダシへ入れた。別に深い考えがあって、したことではない。ひとつ読んでやろう、というだけのことであった。
いつもは衣服をつけると、さっさと帰るのに、ノドがかわいたと云って、一人でお茶をいれて飲んだり、天ぷらやオシンコをつまんだり、古雑誌をとりあげて頁をめくってみたり、色々ひまをつぶしている。
「今夜は帰らないのかえ。いつもにくらべておそいようだぜ」
「私、今夜はこゝへ廻るつもりで、うちのこと頼んできたから、いゝわ。でも、おそくなるから、もう帰るわ」
「あゝ、物騒だから、おそくならない方が
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