子をつかまえて頻りに活躍しているところへ私がニヤニヤ近づいて行くと、急に、あなたなんか知りません、とばかりソッポを向いて、私はマジメな銀行員です、ヒヤカシじゃありません、というようにやる。オバカサンだ。相手の女が雑誌記者じゃないか。私はちゃんと知っているのだ。
 私のところへ一服休憩にきて、
「あ、あの子は、ちょッと、シャンだ。あれをやろう」
「よせよ。あれもヒヤカシだよ」
「ウソですよ。素人娘ですよ」
 と走って行って、ワタリをつけている。三十分ほどして戻ってきたから、
「オイ、あの女は、横浜で焼けだされて、厚木の近所の農村へ疎開してると云ったろう」
「アレ、僕たちの話、立聞きしましたね」
「別の男とやってるのを聞いてたんだよ。いゝかい、あの女と、あの女と、あの女と、あの女、四人のちょッとした女はみんな一味だよ。あそこにいるオバサンを軍師にして、ヒヤカシに来ているのだ」
 見合いに忙しい御当人には分らないが、私のような見物人には、化けの皮が分るのである。
 要するに見合いに立ち騒いでいる大部分はニセモノばかりで、二千余人のホンモノはボンヤリ立ってニセモノの大活躍を見ているばかり、自分の力で言い寄る勇気がない。恐らく主催者がなんとかしてくれるものだろうと思って出てきた人で、多くはわざわざ田舎から来た真剣な人たちのようであった。そして五六時間ボンヤリ河原に突っ立っていただけで、一言も誰と言葉を交わすでもなく、むなしく帰って行ったのだ。
 同じ村から一しょに出てきた二人の娘が、向い合って河原に尻もちついて、さっきから、もう二時間も懐中鏡で鼻の頭をてらしながら、同じところへパフばかりたゝいている。男の顔を見るはおろか、全然顔をあげることができないのだ。誰かゞ自分を見ていて、今に誰かゞ話しかけてくれるものと羞恥と不安でイッパイなのだ。然し、誰も見やしない。言いよる者のある筈のない醜い娘たちであった。
 集団見合も、このまゝでは、残酷すぎる。いたましすぎる。
 川にはボートがうかんでいる。パンパンのボートがスーと男のボートに近づいて交渉をはじめた。二つのボートはスーと陸へ並んで行った。そっちの方がてっとり早く見合いを完了したのである。バカバカしい。



底本:「坂口安吾全集 06」筑摩書房
   1998(平成10)年7月20日初版第1刷発行
底本の親本:「サロン 第三巻第
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