ろうと思い、まれに泳ぐからいけないので、泳ぎに馴れゝば却って良くなろうかと考え、体力が疲労していたにも拘らず、強いて水泳ぎにふけった。すると、洟汁はもう決定的なものとなり、八月以来、私は吐き気に苦しみ、思考に注意力を集中持続することが出来なくなった。つまり、仕事ができなくなったのである。
 然し、これを明確に自覚したのは去年の八月であるが、やゝ軽度の症状としては、去年の一月頃から、すでにそうであったかも知れない。
 去年の八月からの私は、吐き気と闘うためのひどい労苦がつゞいた。先ず思考力を集中し持続するために、多量に覚醒剤を服用する必要があり、しかも、その効果は少く、たゞ目が冴えて眠られないという結果をもたらすばかりである。たゞさえ吐き気に苦しみつゞけているのだから、眠るためにアルコールを用いることが難儀となり、いきおい催眠薬の使用が多くなった。その頃から、アドルムを十錠ずつ用いるようになったのである。
 このような肉体的な条件で、各社から殺到する切り売り的な註文に応じることは不可能であり、馬鹿々々しいと思ったから、それらの全部を拒絶することにして、かねて腹案の長篇小説に没頭することに
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