に、ちょうどそれと同じぐらいの力量なのである。
 そこで又、碁石を握って、オレが強い、お前なんか、すごい見幕でハッシ、ハッシ、升田白番で十目ほど勝った。
 然し、これがそもそも升田失敗のもと。私や升田のような酒飲みは、酔っ払ってすぐ眠ると熟睡できるが、酔いがさめかゝるまで起きていると、さア、ねむれなくなる。私は宿へ戻る、すぐ寝ようとすると、まア碁を一局と、木村升田両氏と一局ずつ、それから、両氏のケンカ対局を見物して、酔いがさめ、宿に酒がないから、とうとう眠れなくなってしまった。升田八段が又、殆ど眠れなかったらしい。
 翌日の対局は結局木村が勝った。
 私が観戦していたところで、将棋はてんで分らない。見ているのは御両名の心理だけだが、将棋そのものが分らないのだから、それに伴う微細な心理はやっぱり分らない。きわめて大づかみの分り方しかできないのである。
 然し、この将棋に関する限り、升田は心構えに於て、すでに敗れていた。木村何者ぞ、なんべんでも負かしてやる、軽く相手をのみ、なめてかゝっていたから、軽率で、将棋そのものがハッタリであった。
 急戦か、持久戦か、という岐《わか》れ目のところで、
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