将棋の鬼
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)呷《あお》った

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ワア/\
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 将棋界の通説に、升田は手のないところに手をつくる、という。理窟から考えても、こんなバカな言い方が成り立つ筈のものではない。
 手がないところには、手がないにきまっている。手があるから、見つけるのである。つまり、ほかの連中は手がないと思っている。升田は、見つける。つまり、升田は強いのである。
 だから、升田が手がないと思っているところに手を見つける者が現れゝば、その人は升田に勝つ、というだけのことだろう。
 将棋指しは、勝負は気合いだ、という。これもウソだ。勝負は気合いではない。勝負はたゞ確実でなければならぬ。
 確実ということは、石橋を叩いて渡る、ということではない。勝つ、という理にかなっている、ということである。だから、確実であれば、勝つ速力も最短距離、最も早いということでもある。
 升田はそういう勝負の本質をハッキリ知りぬいた男で、いわば、升田将棋というものは、勝負の本質を骨子にしている将棋
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