大手門です、と降された時にはテレました。門衛が五六名ゐて、当日参観者の名簿に照し合はせて通過を許してくれる。
皇居内と云つても大手門をくゞつて、とッつきに在るのが済寧館で、誰でも行けるパレスコートがもッと奥手にあるやうである。私の到着が九時四十五分。対局開始の十時に十五分前であつた。
下駄箱の並んでゐる玄関があつて、小学校のやうである。すぐ道場へ行つてみると、なんとも広い道場である。柳生の道場が十八間四面といふのは講談本でオナジミであつたが、こゝは矩形の道場で、玉座を中に、剣道と柔道に二分され、柔道の方は四囲に板の間を残してチョボ/\と畳がしかれてゐる。その畳が百三十五畳あつたやうだ。道場全部を通算すれば、どれぐらゐの広さになるのだか、キャッチボールはおろかなこと、子供は野球ができるのである。
畳敷きの上の玉座寄りに緋モーセンを敷き、三方を四枚の屏風でかこつて、八畳ぐらゐの対局場ができてゐる。ボンサイだの木彫などの飾り物がおいてあるが、こんな物でも運んでこなければ殺風景で困つたらう。一見して、どうしてもハラキリの場といふ舞台面である。それ以外の何物でもない。事実に於て、どちらか一
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