に許るされてゐたやうな出来事などがあつたのです。沢辺狂人と私は悟入を志して仏教を学び牛込の禅寺へ坐禅を組みにでかけたりなどしてゐた可愛気のない中学生でもありました。
 後年私の為すところが世間の常識によつてはやや色魔にも類すべき種類のものであることを私は認めてゐるのですが、中学生の私は子供にしてはひねくれた理知と大人の落付きを備へた美少年であつたとはいへ、過剰にすぎる夢のゆゑに現実を遠くはなれ、少年よりもむしろ少年であつたやうです。私の生涯に於て私を色魔と称ぶところの先駆者の栄誉を担ふ人は当然白眼道人なにがしの妻女でありませう。彼女はその花柳界育ちの眼力によつて私自身が知る以前に私の本性を看破したのでありませうが、十八歳の中学生を一眼みるや唐突にお前さんは色魔だねと浴せかけたひとりの女の実在を思ふと、この場合に限りむしろ不安であるよりも幾分失笑を禁じ得ません。
 私は然し敢て私の弁護ではなく一応世間人の大胆すぎる常識を批難せずにはゐられない。人々はその各々の愛情の始めに当つて、どうして恐れげもなくその愛情の永遠を誓ひ合ふのでありませうか。それはまつたく乱暴なことであります。そしてそのや
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