ます。
長谷川といふ指紋研究家もさうでしたが、彼は私の愛慾について語るべきときには、まつたく口を噤んでゐました。また私の未来について語る時にも、あなたの性格はあまのぢやくだから――さう語つて私の視線をはばかるやうに俯向き、さう言へばあなたに通じるでせうねと呟いておいて、だから色々の障礙《しようがい》がありますと言つた。勿論彼は敵意を見せはしなかつたのですが、言明をさける風が私の場合の唯一の態度であつたのです。
私は好んで占師の前に立つたことはありませんが、一度は路上で俄雨にうたれそこが丁度ある占師の門前であつたときと、一度は酒の酔にまかせて都合二回職業占師の眼光に心身をさらしてゐるのです。結果は長谷川指紋研究家と大同小異でありました。私の愛慾生活の宿命とあまのぢやく的性格に就て語る時には言外の暗示によつて私の理会に俟《ま》たうとする用心深い眼付をみせたやうでした。私は事を神秘化して言はうとするものではありません。彼等が暗示するものに就いては、もとより私がつとに知らぬ筈がなかつたのです。
話が偶然占者とのみ関聯しますが、私の中学時代の最も親しかつた友達が、白眼学舎なにがしと看板をか
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