思想なき眼
――「危険な関係」に寄せて――
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)手管《てくだ》
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この著作を刊行するに当つてラクロは神経を使つたらしい。それで序文に、悪人の手管《てくだ》を暴露することは良俗に貢献するであらうなどと効能を述べてゐるが、それでも尚、自信がなく、非難すべき根拠に就て自覚をいだいてゐたことは序文が語る通りである。
そしてラクロがどのやうにこの一書の効能をのべたて、ひけらかしてみたところで、事実に於て「良俗」に反することを御当人が自覚しない筈はない。そのことは現在日本に於ける情痴作家坂口安吾とても同じことで、これは人間の書物である、とか、だから又モラルをとく書物であるとか述べてみたところで、最も単純直接の意味に於て極めて率直に「良俗」に反する悪徳の書であることは論をまたず、当人が自覚してゐるものである。
千七百八十二年刊行の本書に著者はルソーの句をかりて「現代の世相を見て余はこの書簡集を公にした」といふ。その筆法では一九四七年の現代でも同じ文句で間に合ふ筈で、これは醇風良俗に進歩がなかつたせゐばかりでなく、最も決
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