た一度アメリカのニュース映画を見に行つたほかは(原子バクダン)映画も劇もレビューも野球も相撲も見たことがない。見たいと思はないから。
思へば空襲は豪華きはまる見世物であつた。ふり仰ぐ地獄の空には私自身の生命が賭けられてゐたからだ。生命と遊ぶのは、一番大きな遊びなのだらう。イノチをはつて何をまうけようといふ魂胆があるでもない。
文学の仕事などといふものが、やつぱりさういふ非常識なもので、いはゞそれに憑かれてゐるからの世界であらう。芸ごとはみんなさうで、書きまくつて死ぬとか、唄ひまくつて、踊りまくつて、喋りまくつて、死ぬとか、根はどつかと尻をまくつて宿命の上へあぐらをかいてゐる奴のやることだ。
俺の芸は見世物ぢやないとか、名も金もいらない、純粋神聖、さういふチャチな根性ぢや話にならない。人様がどう見てくれようと、根は全然そつちを突き放してゐるから、甘んじて人様のオモチャになつて、頭を叩かれようとバカにされようとエロ作家なんでもよろしい、一人芝居、憑かれて踊つてオサラバ、本当の芸人なら生き方の原則はこれだけだ。我がまゝ勝手、自分だけのために、自分のやりたいことをやりとげるだけなのだから
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