のしかゝつてゐる。
木村名人手をふきながら戻つてきて、ワキ目もふらず、すぐ坐り、盤面に見入る。厳然端坐、口を一文字、モーローたる目に殺気がこもり、盤を睨んで待つうち、塚田八段五分考へて、
六六香
喧嘩腰、パチリと叩きつけて、すぐ立ち上つて、去る。
今度は木村名人がグッと盤へのしかゝる。顔ばかりぢやない。その頸《くび》の根まで、真ッ赤なのだ。タバコをつけ左手にもち、例のマネキ猫、空間をにらんで、口をひらいて、考へてゐる。手と口が、かすかにふるへてゐる。
五九銀(六分)
木村名人、又、パチリと叩いて、天井を仰ぎ、ウ、ウ、ウ、と大きく唸る。左手にタバコをかざしたまゝ。塚田八段、グイと膝をのりだして
六四香(一分)
音なく、指で抑へてスーと突きだす。
同歩。これも音なし。名人キュッと口をしめてゐる。
塚田八段、眼鏡を外してふく。顔面益々紅潮、左手を膝につき、右手をフトコロ手、左腕を抑へて、前かゞみに、からだを幽かにゆすつてゐる。五分。七五桂打。パチリと打ち、もう一度とりあげて、パチリと叩く。
木村名人、小手をかざして眺めるといふ、あの小手をかざして、眉を掻きながら、盤を睨
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