と舌つゞみを打ちながら、部屋のあちこちを見廻す。その目は腫れたモーローたる目である。
塚田八段十分考へて、五八金左。すぐ五六飛、六八桂、三分考へて四九桂成、同王、五八飛成、同王、六二王。
例の夕立に干物のバタバタバタで、私のかねての狙ひ、どこで手が変るか、その手が変つてゐたのだが、私にはそれが分らぬ。私は手を見てゐるのぢやなしに、打つ人の顔を見て、顔で判断してゐるのだが、劇的な何物もなく、たゞバタバタバタの一瀉千里、片がついてゐたのだ。五六飛の次、二十七手目、六八桂で変つてゐた。
私は将棋が分らないから、どこで変るか、そんな見世物みたいの興味で見てゐるほかに手がないのである。加藤八投の解説によると、六八桂、今までにある手、当然の指し手で、三十八手負けの塚田八段の指し手がひどすぎたのださうだ。こつちはさうとは知らないから、どこで変るか、ウノ目夕カノ目、面白づくで打ち込んでゐて、バカを見た。
塚田八段の長考がはじまる。ちやうど三十分すぎたとき、木村名人が記録員に、
「相撲へ行つたかい」
「ハア?」
「相撲へ行つた」
「いゝえ」
そこで、とぎれる。名人膝をたて、手をまはして膝を抱へ
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