さか突然姿が掻き消えたわけではあるまい」
「坂の途中で小便の様子だから通り越して来たんですよ」
「バカヤロー。不二男の策にはまってズラカられたのだ。それで死神を落してやるの、性根を叩き直してやるのと、気のきいたことができるものか。もうキサマらに用はないから、とッととどこへでも消えてなくなれ。不二男の奴、もう、カンベンならねえ。警察で勘当の話をつけてもらう」
平作はジダンダふんで警察へ戻ってきたのである。
話をきいて、小野刑事はフッとタバコの煙をふいて、
「お題目の様子が神妙すぎると思ったら、やっぱりね。邪教が人をだますというが、この町の連中は邪教をだますのが流行だね。お加久はだませても、オレの目はだませないぞ。不二男の行き先ぐらいは、考えるヒマもいらないさ。一しょに来なさい。つかまえてあげる」
小野は立ち上ると、いきなり外出の支度をはじめた。
小野は平作をうながして、ドシャ降りの中へとびだした。裏通りから露地へまがる。
「シッ。静かに」小野は平作を制しておいて、小さな家の戸口の方へ進んだが、にわかに立ち止った。
「アッ。誰か、人が」
平作にはそんな気配は分らなかった。
「え?
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