の奴、山の神の信者になったらしい様子ですぜ。また、お加久の奴が、どういうものか、不二男に目をつけたんですね。不二男に死神がついてると云うんです。それを払ってやるというんですな。昨日まではそうだったんだが、今朝方から、不二男の奴、合掌して、お加久に合せてお題目を呟いてる始末ですよ」
それをきくと平作の目の色が変った。
「すると、お加久にたのむと、不二男の性根を叩き直してもらえますかな」
「神様のことは警察には分りませんや」
「ひとつ、お加久に会わせていただけませんかな。もしも不二男の性根が直るものなら」
「ハッハッハ。会わせてあげないこともありませんが、それ、そこのベンチに腰かけて合掌してる怪人物をごらんなさい。兵頭清という二十五の若者ですが、お加久の大の信者でしてな。教祖の身を案じてあのベンチに坐りこみです。性根が直ってあんな風になるのも、困りものかも知れませんぜ」
普通に背広をきて、一見若い事務員風の男。それがジイッと合掌している。青白い病的な若者じゃなくて、運動選手のような逞しさ。それがジイッと合掌しているから、かえって妖気がただよっている。平作はつぶさにそれを観察したのち、
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