良を歩くと、案山子以外の全ての人間が泥の中へうずくまって土下座する。見渡す全てのミノリも、全ての山々の緑も、彼自身のものである。
「オレがママにならないのは太陽だけだ。人間のウジムシどもなぞが、オレにオソレ多くも話しかけることもできないようにならなくちゃア……」
夢のようなことを考える。ふと我にかえると、夢を裏切る現実に、まず何よりもハラワタが煮えたつのは不二男のことなのである。
術にかかる神様
平作がドシャ降りの中を疲れきってわが家へ戻ると、わが家の土間では大騒動がもちあがっている。土間にお加久と兵頭ががんばっていて、入れろ入れないで女房お常と争っているのである。
お常は平作を見るより駈けよって、
「どうしたのさ。いつまでも、どこをうろついてきたのさ」
「不二男の姿をさがしていたのだが」
「不二男ならとっくに戻ってきて、ねちまったよ」
「そうか。一足先に帰りやがったか」
「この人たちを、どうするツモリなんだよう。不二男についてる死霊とかメス狐とかを落すんだって? お前さんが頼んだッてのは本当なのかね」
「イヤ、一度はたのんだが、あとで断わったのだ。しかし、まア、こ
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